胡蝶蘭の病気と害虫
初めに
胡蝶蘭の病気は葉や根が腐ったり、枯れたり、いろいろな症状が出ます。
参考書やWEB記事が書かれておりますが、実際に原因菌を見つけ出すのはとても困難です。
たとえば根が黒くなり部分的に壊死しました。原因として考えられるのは
1,フザリューム菌が入った
2,リゾクトニア菌(紋枯れ菌)が入った
3,傷口(害虫等)から腐敗菌が入った
4,水分過多による窒息
5,水分過多による根の太りすぎ
薬剤で対処するには原因を見つけなくてはなりません。当園では近くに三重県の園芸試験場があります、不審な物を見つけると、持ち込んで検定してもらいます。
ところが顕微鏡で覗くと、黒くなっている所は腐敗が進み、分解されて菌糸は無く、数種のカビの胞子があり、特定できません。
特定するには、感染初期の僅かに変色した部位を見つけ出すことが必要です。顕微鏡下で繊維のような菌糸が見えますが、リゾクトニア、フザリュームも糸状菌で個体差もあり、判別できません。
その菌糸をシャーレーに取り、寒天で1週間以上培養→胞子を作成して鑑定します。
このように特定するには大変な設備や時間が掛かります。単に黒い根の写真では判断できないのです。
どのような環境のとき発生したのか?それが推測上重要なポイントとなります。
本ページでは少しずつ書き足して行きます。気長にお待ちください。
日焼け
光線が強すぎると焼けて白化します。屋内では30000ルクスが上限です。
温度が高すぎると黒くなり、内部が壊死して腐ってきます。軟腐病を誘発することが多いので早い目に切り取ります。
細菌による病気
細菌とは動物のごく小さいもの、カビは植物の小さいものと例える。細菌は鞭毛を持ち、オタマジャクシのようにしっぽ(鞭毛) を動かして動き回ります。
カビは酵素を出し、胡蝶蘭の葉の組織を分解して内部に入ります。自力で葉の表皮分解できない細菌、胡蝶蘭の体内に入り込むには、傷口、気孔、葉先等の開口部から入り込みます。感染初期は進行が遅いが目に見えるようになると、驚異的なスピードで進行します。
軟腐病
独特の異臭があり、他の病気と区別できます。胡蝶蘭栽培のネックとなる病気です、放置すれば温室全部の胡蝶蘭が全滅することもあります。
写真は葉先に発生したものです。軟腐は細菌による病気です。
患部はやわらかくブヨブヨで手で触れると組織が破れて中の水が出てきます。この中にたくさんの軟腐細菌が入っています。
細菌は健全な葉の表面にたくさん付着しています。灌水で水の中を泳いでが広がり、乾燥すると埃のように風に乗って飛び散ります。ホースで葉に元気よく水を飛ばすと、水に乗り拡散し、感染を広げします。
対策
基本的に感染株は廃棄します。貴重な株は患部を多い目に切り取り、切り口を木工ボンドにダコニール等の殺菌剤(原液)を加えて塗布。
汚染物が付着した部分は放置せずに塩素系台所洗剤の原液を滴下しておきます。床面はトーチバーナーで加熱。
このように葉元に発生した軟腐病は手の施しようがありません。早く株ごと処分する必要があります。
葉元から幹に入り枯死します。もったいなくても早く処分、他の株に感染させないことが必要です。
細菌は乾燥すると多くは死滅せず、休眠して耐久体となり、殺菌薬が効かなくなります。湿気が多くなると元に戻り活動する。軟腐病が多発する傾向のときは、初期の病変でも廃棄処分して環境を浄化する必要があります。一度使用したトレー、鉢は熱処理(実効90℃ 10分以上)する必要があります。またはウイルス対策用の薬剤第3リン酸ナトリウム飽和液に1日以上浸します。
別のタイプ
組織内部は破壊されるが表皮は強度が残るタイプ。軟腐病と同じ系統の細菌により引き起こされます。感染力は通常の軟腐病に比べると弱いが、放置すると周囲の胡蝶蘭に伝染します。患部表皮が破れない間は病原菌が拡散せずに内部に封入しています。
写真のように胡蝶蘭が抗体を作り細菌が幹までの侵入をブロック。屋外栽培の時は感染も早くなり注意が必要です。
病気の葉は刃物で切り取らずに根元からもぎ取るようにします。汚染された葉は早く処分してください。
褐斑細菌病
葉に小さな黒点が生じ、そこから腐敗する。当店では1980年頃生じたがそれ以後発生を見ない。
治療予防、ビスダイセンが特効薬だが現在は製造中止、代替えはジマンダイセンが有力と思うが実際の効力は不明。早く廃却処分した方が良い。
カビが原因
灰色カビ病(ボトリチス菌)
株を枯らすような重症にはならないが完全な予防は難しい、営利栽培では品質が低下するので大敵となる
最初は褐色の小さい点、、徐々に成長して黒く見苦しくなり、著しく観賞価値を損ないます。
軽度の症状であれば問題ありませんが、重度の場合は花持ちも悪くなるので株を残して花は廃棄処分する以外方法はありません。
発生原因
自然界にはボトリチス菌の胞子が多数空気中に浮遊しています。これが埃のように、胡蝶蘭の葉や花びらの表面に付着している。
空気中の湿度が飽和状態(100%)、気温が18℃前後の環境が続くと、一斉に胞子が発芽します。
発芽した胞子は根っこ(菌糸)を伸ばし、酵素を分泌し胡蝶蘭の花弁、葉面の組織を分解して組織内に入り込み、成長を続けます。
発芽環境が整い→胞子が発芽するまでに1日、植物体に入り込むまでにさらに1日かかります。
1日の雨天の後、良い天候になれば発芽した胞子は乾燥して死滅する。晴れが続いた後、1日程度ジメジメしたり、雨が降っても問題ありません。
これが2日、3日と続くと発芽した菌体が植物体に入り込み、成長して目に見えるようになってきます。初期の状態は目に見えないので、一晩で発生したと錯覚します。
さらに悪化
胡蝶蘭の花は菌体に対抗して抗体を作り、黒点の周囲が周囲が緑色をしてきます。病気自体の進行は止まりますが見苦しく鑑賞に耐えません
葉は表面が固い表皮で保護されているので、菌糸は容易に入り込むことはできません、長く高湿度が続くと若い柔らかい新葉や軟弱な幼い株は侵されます。
対策は
① 湿度を下げる
除湿機が最も効果的です。飽和状態(100%)にしない、通風を良くしないと部分的に飽和状態になっている。
当店の除湿機は高精度で98%で運転、96%で停止します。雨の日は当然ですが晴れた日も日没後は運転しております。家庭では玄関に置かないで居間とか少しでも湿度の低いところに置いてください。
② 温度を上げる
温度を上げることは水蒸気の飽和状態を防ぐことにあります。ボトリチス菌の生育を妨ぐには25℃以上げる必要があり、現実的ではありません。
③ 間違ったことをしない
花、葉の霧吹きは晴天時や暖房中以外しないでください。
種類により高湿度の環境で花粉に感染することがあります。花粉が黒くなると約1週間で花が枯れることがあります。
リゾクトニア菌による根腐れ
胡蝶蘭栽培の最も厄介な病気
根腐れのほとんどが感染しています。
苗に感染、根の内部、導管が侵され廃却処分。
根以外に生長点にも入ります。生長点を侵され成長停止、養分が葉に溜まり厚くなる。
鉢の内部が茶色になります。キノコの香りがします。対策はリゾレックス、モンセレン、バリダシンなどの殺菌剤を灌注します
フザリューム
フザリューム菌侵入にによる抗体反応、ピンク色
リゾクトニア菌と同系統、フザリュームと判別が難しい、通常リゾクトニア菌対策が完全であれば発症例は少ない。
成長は遅れるが杉皮コンポストは発生が少ない、すでに感染した株は杉皮を使用しても無意味
トリコデルマ菌添加は、未感染の株であれば有効だが、効果維持は困難、特に夏に悪玉菌に入れ替わる。
花茎枯れ病(疫病)
伸びたステム(花幹)が突然途中で枯れてしまいます。
ステムの根元が侵され白くなってきた。そのまま放置すると白い菌糸が現れ、胞子を飛ばします。多くの株に感染したことは無いので当園としては廃却処分で対処、予防等処置はしていません。
防除農薬はアリエッティ
炭疽病
下葉に黒い斑点ができる、次第に拡大、最後は落葉する。ダイセンなど多くの殺菌剤で対応できます。主に高温多湿の季節に発生
下葉の場合はもぎ取って特に消毒はしません。
枯れた花を放置すると感染します。
耐性ハダニハダニの根絶方法、他の害虫
ハダニ
胡蝶蘭には比較的付きにくいですが油断をしているとまん延します。
ハダニは耐薬品性が付きやすく、1、2種のダニ剤では効果が期待できない。
少量であれば濡れ衣で拭き取る、梅雨季に屋外栽培をする。
当店ではハダニを発見しだい効果の程はよく解らないが
「天敵:チリカブリダニ」を放っています。
500㏄程のボトルに2000頭入っているそうです。ハダニを食べて増殖します。ダニ以外食べないのでハダニがいなくなればチリカブリダニも消滅します。定着しての予防は出来ません。今のところ効果あるようです。
他にハダニが少なくなると、花粉を食べて生き延びるミヤコカブリダニがありますが、胡蝶蘭の花粉を食べられては困るのでテストしていない。
2019年5月 耐性ハダニの根絶
ハダニにも多くの種類があり、水を吹きかけるだけでいなくなるものもあります。多くのダニは農薬をローテーションして頻繁に消毒を行わないと大きな被害が出ます。例外で農薬が全く通用しないダニもいるようです。
市場で仕入れたミニ胡蝶蘭、可愛いので、親木の近くに置いていたところ、それから感染、気が付くのが遅く、大事な株の多くに広がってしまいました。ルーペで見るとナミハダニのようだが体の中心が赤い。
知人の植木栽培農家で5種のダニ剤を借りてきて試験散布しましたが効果無し。農薬が全く効きません。それならと手持ちのセルコート10倍を散布、絡めとる方法である。8割は死ぬはずだが2~3割位しか効果無い。 もちろん卵には殺卵効果は無い。
薬剤耐性の出ない「粘着くん」を購入。指定の倍率100倍を散布、→全く効果無し。メーカーに問い合わせたところそのような報告が無いとのこと。粘度の関係で散布できる限度30倍で試験散布→2日後半分以上残っている、1週間後も変わりなし。
散布直後に生まれたて生まれたての小さいダニにも効果がない。「粘着くん」は小さいほど殺虫能力が高いはずだが。撥水作用が強い系統なのか?。セルコート10倍と粘着くん20倍を混ぜて散布すると効果大。
「マシン油剤」
名前の通り機械油に界面活性剤を混ぜた物。温室内で栽培する胡蝶蘭には使用したレポートも無いのでテスト。
30倍を散布、様子を見ることにした。翌日8割は死んでいる。1週間後9割以上死んでいた。2週間後、生まれた子ダニも死んでいる。ほぼ駆除できたようだ。1月後マシン油を洗い流して作業完了。洗い流さないと冬季は問題ないが、胡蝶蘭は呼吸困難?ストレスで蜜を出したり、新芽が黒変する。
尚食用油に展着剤を混ぜて散布するのは絶対に止めてください。効果はありますが、洗っても落ちないし、スス病を誘発します。
コナダニ
コナダニとは、一般にケナガコナダニを指す。胡蝶蘭の蕾や花が突然萎れるのは、コナダニが雌蕊や花粉を食害して発生します。温室より家の中の方が多い、どこにでもいます。
肥料に油粕などの有機物を使用した時、多く発生します。胡蝶蘭の生産農家はペンタック水和剤を灌注します。コナダニは弱く、当店で数種、規定倍数のダニ剤で試験、全て駆除できました。 「駆除できました」と書きましたが、ダニは目に見ることはできません。実際は耐薬品のダニが居る可能性があります。 対策として一方通行の苗の流れを徹底します。開花室の花を苗室に持ち込まない。苗を開花室に入れない。 開花室で使用するダニ剤は苗室で使用しない。
ピンクの汚れは、こぼれ落ちた米ぬかに群がったケナガコナダニ。(コナダニは集団化するとピンク色を呈する) 1㎝x1cmに100頭以上。これ全部だと1000万?頭。2ヵ月放置するとここまで増殖する。霧散せずに良かった。
カイガラ虫
白い埃のような虫、次第に大きくなり5mmほどになる。幼いときに空中を浮遊して広がる。
外部から持ち込まない限り自然発生は無い。葉以外に根にも付着するので根絶は難しい。
輸入苗に付着していることがあるので注意する。使える農薬は少なく、効果も限定的。オリオン、モスピラン水和剤などが期待できる。以前はスプラサイドが使用されたが、製造中止。
その他の害虫
バッタ、ナメクジ
バッタ、ナメクジの食害が多い。バッタは直径1~2㎝程度の穴が空いている。ナメクジは薄皮が残っている。
ゾウムシ
輸入株に付いてくる。フザリュームと間違えるので注意。よく見ると生長点や幹に小さい穴があいている。放置するとまん延する。
スミチオン等の殺虫剤を散布する。