胡蝶蘭の病気と害虫

はじめに

胡蝶蘭の病気は葉や根が腐ったり
枯れたりいろいろな症状が出ます。

参考書やWEB記事が書かれておりますが実際に原因菌を
見つけ出すのはとても困難です。

たとえば根が黒くなり部分的に壊死したとしましょう。
原因として考えられるのは

 ①フザリューム菌が入った
 ②リゾクトニア菌(紋枯れ菌)が入った
 ③傷口から腐敗菌が入った
 ④害虫による食害

薬剤で対処するには原因を見つけなくてはなりません。
当園では近くに三重県の園芸試験場がありますので不審な物を
見つけると、持ち込んで検定してもらいます。

ところが既に黒くなっていると既に菌糸は無くて
腐敗菌が入り込み、顕微鏡で覗くと数種のカビの胞子があり
特定できません。

特定するには、感染初期の僅かに変色した部位を見つけ出すことが
必要です。
顕微鏡下で繊維のような菌糸が見えますが、リゾクトニア
フザリュームも糸状菌で個体差もあって判別できません。

その菌糸をシャーレーに取って寒天で培養し
胞子を作成して鑑定します。

このように特定するには大変な設備や時間が掛かります。
単に黒い根の写真では判断できないのです。
どのような状態のとき発生したのか
それが推測上重要なポイントとなります。

本ページでは少しずつ書き足して行きます。
気長にお待ちください。

日焼け

日焼けによる白化

光線が強すぎると焼けて白化します。
30000ルクスが上限です。

温度が高すぎると黒くなり内部が壊死して
腐ってきます。
軟腐病を誘発することが多いので早い目に切り取ります。

細菌による病気

細菌とは動物のごく小さいもの
カビは植物の小さいものと例える。
細菌は鞭毛を持ち、オタマジャクシのようにしっぽ(鞭毛)
を動かして動き回ります。

胡蝶蘭の体内に入り込むには、傷口、気孔、葉先等の
開口部から入り込みます。
感染初期は進行が遅いが目に見えるようになると
驚異的なスピードで進行します。

軟腐病

葉先の軟腐病 1

独特の異臭があり、他の病気と区別できます。
胡蝶蘭栽培のネックとなる病気です、放置すれば温室全部の胡蝶蘭が
全滅することもあります。

写真は葉先に発生したものです。
軟腐は細菌による病気です。

細菌はカビと違い、自力で侵入することができません
傷口や気孔から細胞内に入り破壊を始めます。

患部はやわらかくブヨブヨで手で触れると組織が破れて中の水が
でてきます。
この中にたくさんの軟腐細菌が入っています。

細菌は表皮を分解し健全な葉の表面に広がり、たくさん付着しています。
灌水で水の中を泳いでが広がり
乾燥すると埃のように風に乗って飛び散ります。
ホースで葉に元気よく水を飛ばすと、水に乗り拡散し、感染します。

対策

特に大事な株は患部を多い目に切り取り、切り口を
台所用塩素入り洗浄剤(キッチンハイター等)の原液を塗ります。

そうでない株は新聞紙を被せ、燃えるごみの袋に入れて処分。

汚染物が付着した時は放置せずに前記の消毒液の原液を
滴下しておきます。
またはハンドトーチで加熱(たとえ地面でも)。

葉元の軟腐病

このように葉元に発生した軟腐病は手の施しようがありません。
早く株ごと処分する必要があります。

軟腐病により枯れた株

葉元から幹に入り枯死します。
もったいなくても早く処分し他の株に感染させないことが必要です。

細菌は乾燥すると多くは休眠して耐久体となり、
殺菌薬が効かなくなります。
軟腐病が多発する傾向のときは、初期の病変でもただちに
廃棄処分する心がけが必要。

早く処置しないと細菌が温室全体に付着し
長期にわたり発生する危険があります。
一度使用したトレイ、鉢は熱処理(90℃ 10分以上)する必要が
あります。
またはウイルス対策用の薬剤
第3リン酸ナトリウム飽和液に1日以上浸します。

別のタイプ

性質の異なる細菌病

組織内部は破壊されるが表皮は強度が残るタイプ。
同じ系統の細菌により引き起こされます。
感染力は通常の軟腐病に比べると弱いが放置すると
周囲の胡蝶蘭に伝染します。
患部が破損しない間は病原菌が拡散せずに内部に封入しています。

写真のように胡蝶蘭が抗体を作り細菌が幹までの侵入をブロック。

屋外栽培の時は感染も早くなり注意が必要です。

病気の葉は刃物で切り取らずに根元からもぎ取るようにします。
汚染された葉は早く処分してください。

褐斑細菌病

褐斑細菌病

葉に小さな黒点が生じ、そこから腐敗する。
当店では1980年頃生じたがそれ以後発生を見ない。

予防はワックス剤で葉をコーティングする。
ビスダイセンで消毒するが早く廃却処分した方が良い。

カビが寄生して発症

灰色カビ病(ボトリチス菌)

花びらに感染

 

最初は褐色の小さい点ですが、徐々に成長して黒く見苦しくなり
著しく観賞価値を損ないます。

軽度の症状であれば問題ありませんが重度の場合は花持ちも
悪くなるので株を残して花は廃棄処分する以外方法はありません。

発生原因
自然界にはボトリチス菌の胞子が多数空気中に浮遊しています。
これが埃のように、胡蝶蘭の葉や花びらの表面に付着している。

空気中の湿度が飽和状態(100%)、気温が18℃前後の環境が
続くと一斉に胞子が発芽します。
発芽した胞子は根っこを伸ばし、酵素を分泌して胡蝶蘭の
花びらの薄い組織を分解して組織内に入り込み成長を続けます。

一晩で発生
発芽環境が整い→胞子が発芽するまでに1日、植物体に
入り込むまでにさらに1日かかります。

1日後、良い天候になれば発芽した胞子は弱く死んでしまいます。
晴れが続いた後に1日ぐらいジメジメしたり、雨が降っても
問題ありません。

これが2日、3日と続くと発芽した菌体が植物体に入り込み
成長して目に見えるようになってきます。
初期の状態は目に見えないので、一晩で発生したと錯覚します。

さらに悪化
胡蝶蘭の花は菌体に対抗して抗体を作り、黒点の周囲が周囲が
緑色をしてきます。

病気自体の進行は止まりますが見苦しく鑑賞に耐えません。
葉は表面が固い表皮で保護されているので、菌糸は容易に
入り込むことができません。

長く高湿度が続くと若い柔らかい新葉や軟弱な幼い株は
ボトリチス菌にしだいに侵されます。

対策は

① 湿度を下げる
除湿機が最も効果的です。
90%以下が最適ですが、現実は99%でも飽和状態になって
いなければ大丈夫です。

当店の除湿機は高精度で98%で運転、96%で停止します。
雨の日は当然ですが晴れた日も日没後は運転しております。
家庭では玄関に置かないで居間とか少しでも湿度の低いところに
移動します。

② 温度を上げる
温度を上げることは水蒸気の飽和状態を防ぐことにあります。

ボトリチス菌の生育を妨ぐには30℃近くまで上げる必要があり 現実的ではありません。

③ 間違ったことをしない
花、葉の霧吹きは晴天時や暖房中以外しないでください。

花粉に感染

種類により高湿度の環境で花粉に感染するものがあります。
花粉が黒くなると約1週間で花が枯れます。
ただ黒くなるだけのる品種もあり、例外があります。

リゾクトニア菌による根腐れ

胡蝶蘭栽培の最も厄介な病気
根腐れのほとんどが感染しています。

リゾクトニア、苗
苗に感染、根の内部、導管が侵され廃却処分。

リゾクトニア、生長点
根以外に生長点にも入ります。
生長点を侵され成長停止、養分が葉に溜まり厚くなる。

茶色の菌糸が多くキノコの香りがします。

リゾレックス、モンセレン、バリダシンなどの殺菌剤を灌注します

フザリューム

フザリューム病
フザリューム菌侵入にによる抗体反応、ピンク色

リゾクトニア菌と同系統
フザリュームと判別が難しく通常リゾクトニア菌対策が
完全であれば発症例は少ない。

花茎枯れ病(疫病)

疫病1
伸びたステム(花幹)が突然途中で枯れてしまいます。

疫病2
ステムの根元が侵され白くなってきた。

そのまま放置すると白い菌糸が現れ、胞子を飛ばします。

多くの株に感染したことは無いので当園としては廃却処分
で対処、予防等処置はしていません。

防除農薬はアリエッティ

炭疽病

炭素病

下葉に黒い斑点ができる、次第に拡大、最後は落葉する。
ダイセンなど多くの殺菌剤で対応できます。

主に高温多湿の季節に発生
下葉の場合はもぎ取って特に消毒はしません。

花の炭素病
枯れた花を放置すると感染します。

耐性ハダニハダニの根絶方法、他の害虫

ハダニ

ハダニ

胡蝶蘭には比較的付きにくいですが油断をしているとまん延します。
ハダニは耐薬品性が付きやすく、従来のダニ剤では効果が期待できない。

少量であれば濡れ衣で拭き取る、梅雨季に屋外栽培をする。

当店ではハダニを発見しだい効果の程はよく解らないが
チリカブリダニ
「天敵:チリカブリダニ」を放っています。

500㏄程のボトルに2000頭入っているそうです。
ハダニを食べて増殖します。

ダニ以外食べないのでハダニがいなくなればチリカブリダニも消滅
します。
定着しての予防は出来ません。

今のところ効果あるようです。

他にハダニが少なくなると花粉を食べて生き延びるミヤコカブリダニ
がありますが鑑賞花には向かない。

2019年5月 耐性ハダニの根絶

ハダニにも多くの種類があり、水を吹きかけるだけでいなくなるものもあります。
多くのダニは農薬をローテーションして頻繁に消毒を行わないと大きな被害が出ます。
例外で農薬が全く通用しないダニもいるようです。

卸業者が市場で仕入れたミニ胡蝶蘭、輸入品と思われる。
可愛いので購入。
親木の近くに置いていたところ、それから感染、
気が付くのが遅く、大事な株の多くに広がってしまいました。

ルーペで見るとナミハダニのようだが体の中心が赤い。

知人の植木栽培農家で5種のダニ剤を借りてきて試験散布しましたが効果無し。
農薬が全く効きません。
それならと手持ちのセルコート10倍を散布、絡めとる方法である。
8割は死ぬはずだが2~3割位しか効果無い。
もちろん卵には殺卵効果は無い。

薬剤耐性の出ない「粘着くん」を購入。
指定の倍率100倍を散布、→全く効果無し。
メーカーに問い合わせたところそのような報告が無いとのこと。
粘度の関係で散布できる限度30倍で試験散布→
2日後半分以上残っている、1週間後も変わりなし。

散布直後に生まれたて生まれたての小さいダニにも効果がない。
「粘着くん」は小さいほど殺虫能力が高いはずだが。

撥水作用が強い系統なのか?
牛乳は試験していないが固めて、
窒息効果を狙う方法は通用しないように思う。
殺卵能力も無い。

セルコート10倍と粘着くん20倍を混ぜて散布する効果大。
マシン油は卵にもある程度効くが、これはダメ。
野菜や樹木でマシン油が使えない時の代用になる。

あと考えられるのはベタベタの膜で窒息される「マシン油剤」。
名前の通り機械油に界面活性剤を混ぜた物。
30倍位で樹木が休んでいる冬季に散布する。
温室内で栽培する胡蝶蘭には使用したレポートも無いのでテスト。

30倍を散布、様子を見ることにした。
翌日8割は死んでいる。
1週間後9割以上死んでいた。
20日後再度30倍を散布。
ほぼ駆除できたようだ。
1月後マシン油を洗い流して作業完了。

尚食用油に展着剤を混ぜて散布するのは絶対に止めてください。
効果はありますが、洗っても落ちないし
スス病を誘発します。

コナダニ

コナダニとは、ケナガコナダニを指すくらい一般的です。
胡蝶蘭の蕾や花が突然萎れるのはコナダニが雌蕊や花粉を
食害して発生します。
温室より家の中の方が多い、どこにでもいます。

肥料に油粕などの有機物を使用した時多く発生します。
胡蝶蘭の生産農家はペンタック水和剤を灌注しますが
コナダニは弱く、当店で数種、規定倍数のダニ剤で試験
全て駆除できました。
手持ちのダニ剤での例外は無かった。

コナダニの塊

ピンクの汚れは、こぼれ落ちた米ぬかに群がったケナガコナダニ。
1㎝x1cmに数100頭。これ全部だと1000万?頭。

カイガラ虫

カイガラムシ

白い埃のような虫、次第に大きくなり5mmほどになる。
幼いときに空中を浮遊して広がる。

外部から持ち込まない限り自然発生は無い。
葉以外に根にも付着するので根絶は難しい。

輸入苗に付着していることがあるので注意する。

使える農薬は少なく、効果も限定的。
オリオン、モスピラン水和剤などが期待できる。
以前はスプラサイドなどが使用されたが植木以外の使用は
認められなくなりました。

その他の害虫

バッタ、ナメクジ

バッタ、ナメクジの食害が多い。
バッタは直径1~2㎝程度の穴が空いている。
ナメクジは薄皮が残っている。

ゾウムシ

輸入株に付いてくる。
フザリュームと間違えるので注意。
よく見ると生長点や幹に小さい穴があいている。
放置するとまん延する。
スミチオン等の殺虫剤を散布する。

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